信彦自戒録 5

 「失敗をなかったことにしようとすることの誤り」


 なんらかの失敗をした時、反射的にその事実から逃れたくなる心理は誰にもある。

「自分はそのような馬鹿なことはしない」などと他人の失敗を他人事としてしか受け止めない、自己中心的な自己意識が強いとそのような行動になってしまう。その反射で逃避すると、取り返しがつかなくなる。

実際の例は少ないが、ひき逃げはその典型だ。事故を起こした瞬間、予測できなかった事態を受け止められず、「そんな気がしただけだ」、「これは白昼夢だ」、「妄想だ」などと思いたい誘惑に駆られることが絶対にないと言い切れる人はどれだけいるだろうか。むしろそんな人ほど逃げてしまうかもしれない。暫くしてから冷静になり、いけないことをしてしまったという反省をして自首する人もいるが、あくまで否定し続ければなかったことにできるかもしれないという気持ちになる人も多い。しかし、目撃者や他の自動車のドライブレコーダーなどから事実を認めざるを得なくなり、有罪になることが殆どだと思いたいが、中には証拠不十分で無罪になる場合もあるだろう。有罪になっても事実を認めない人もいるだろう。

有罪でも無罪でも、罪に問われない日常的な人間関係上の失敗でも、自分の良心は偽れない。良心を偽ってしまうといつも不安になり、それからの人生を暗いものにしてしまう。そのことに気づき、謝罪をするべき相手がいる場合はその人に謝罪するべきなのだ。謝罪しても許されない場合もあるが、それでもいい。そうしなければ、生きている意味はないのだから。