アメリカが、パレスチナのガザ地区に関する「グレイト・トラスト計画」を構想していることは、あまり報道されていないが、驚くべき計画だ。これは、ワシントンポスト紙がリークしたもので、その主な内容は、イスラエルにガザ地区からパレスチナ人を追い出させ、アメリカがガザ地区を10年間管理下に置き、リゾート開発や工場をアメリカの企業の工場を造るという、いかにも資本主義的な考え方を優先するアメリカの計画だ。その計画名は出さないが、トランプ大統領がガザのリゾート化について、「ガザをリビエラのようにする」と、かねてから語っており、その計画は決して絵空事ではない。
このようなことを紛争の当事者の地域において構想するなどということは、悪辣非道さにおいて、ウクライナを侵略しているロシアのプーチン大統領をはるかに超えるのではないだろうか。決して支持できるわけではないが、ロシアにはウクライナ領内のロシア人の権利を守ろうとするナショナリスティックな理由がある。これに対し、アメリカには他国で金儲けをしようとする欲得ずくの動機しかない。これは世界中で問題視し、制裁などを加えるなどして絶対に食い止めなければならない問題ではないだろうか。
ところが、この問題はほとんど注視されていない。9月23日にトランプ大統領はアラブ諸国首脳との会合で、ガザの戦闘終結や戦後統治に関する計画を提示したと米ニュースサイトが報じた。この際、トランプ大統領が「21項目の計画」を提示したというが、ハマスの人質全員の解放、イスラエル軍の段階的な撤収、戦後のガザ統治からのハマス排除、アラブ諸国の治安部隊への関与や復興に向けた資金援助などの他には具体的に何をどう説明したかは不明だ。アラブ側は計画支持の条件として、イスラエルがヨルダン川西岸やガザを併合しないこと、ガザを占領しないこと、ユダヤ人入植地を建設しないことを要求したところ、トランプ大統領は西岸を併合しないと答えたのみだったようだ。
このトランプ大統領の答えは、西岸のユダヤ人入植とガザの占領と併合は許すということ、つまりガザに関しては上記の「グレイト・トラスト計画」を進める方針を貫くことを言外に物語っている。
9月26日、BS-TBSは報道1930において、「グレイト・トラスト計画」について報道していた。しかしこの報道について日本国内での反響がほとんどないのはどういう訳だろう。
(余談だが、この番組の主要テーマはパレスチナの国家承認を日本政府がなぜ見送ったかということがテーマだったが、ゲストのパックン(パトリック、ハーラン氏)が、日本政府が見送った原因は、日本国内でこの問題に関する国民の声が上がっていないからだと指摘していたが、その通りだと私も思う。欧米にばかり関心を持ち、中東で何が起きても日本に直接利害がなければ「対岸の火事」、「他人事」にしてしまう日本人の内向き姿勢、自民党総裁選挙にばかりかまけているマスコミの軽薄さが悲しい。)
この後、9月29日にトランプ大統領がホワイトハウスでイスラエルのネタニヤフ首相に「20項目」の和平計画を説明したという報道がされた(減った1項目はカタールへの攻撃禁止に関するもので、この問題は解決済みになったため除外されたようだ)。この20項目には「グレイト・トラスト計画」があいまいな表現で挿入されていることに注目することが必要だ。
「20項目」の中にある、「ガザの再建と活性化を図るトランプ経済開発計画は、中東で繁栄する現代の奇跡的な都市の誕生に貢献した専門家パネルを招集し、策定される。多くの思慮深い投資提案や刺激的な開発アイディアが善意ある国際グループから提案されており、雇用、機会、ガザの将来への希望を創出するこれらの投資を誘致・促進するために安全保障と統治枠組みを統合することが検討される。」という項目がそれだ。
この甘美な夢を語るような表現にごまかされてはならない。アラブ諸国首脳との会談を経て、イスラエルのガザ地区占領や併合についてはあきらめることにした関係で、別の項目で、ガザからのパレスチナ人の追放と、アメリカによる10年間の管理などのあからさまな措置はさすがにやめたようだが、トランプが主導する開発、投資などを唱っていることは明確だ。ガザ地区パレスチナ人の土地所有権などに代わる債権のようなものを与えるようなことが「グレイト・トラスト計画」にあるが、正当な価値が保障されるわけはないだろう。
この提案の、ハマスを徹底的に排除する一方、一般のパレスチナ人には寛容に扱うというスタンスには、太平洋戦争終結の際、アメリカが日本軍幹部や右翼的思想家などのみに罪を負わせ、一般の日本国民は彼らの被害者であるかのように扱って日本人を懐柔して、現在に至るまで日本を追随国家にし、搾取してきた成功体験が影響しているように感じるのは私だけだろうか。
アメリカには停戦のためと言いながら、以上のような欲深い狙いがあることを指摘し告発することが必要だ。そして、その活動にはパレスチナの国家承認で盛り上げた機運以上の盛り上げが必要だ。その抑止力が弱いまま、この悪辣な和平提案をパレスチナが受け入れなければ、アメリカはイスラエルにガザをほしいままにさせ、それを利用して「グレイト・トラスト計画」を進めることになるからだ。
アラブ側の首脳が、上記のような危機感をもたずに先の会合が終わったとすれば、アラブ側の認識は甘く、パレスチナへの関わり方は冷淡で、イスラエルやアメリカの方針を黙認するつもりのように思える。アラブ諸国さえもアメリカに追随しパレスチナを見捨てるつもりだろうか。
9月30日、カタール、エジプト、トルコの3国がハマスに、アメリカの示したガザの和平計画は「最前の取引」だとして受け入れを迫ったという報道がされている。ホロコーストになる事態を防ぐためにはやむを得ないということならわかるが、アメリカの巧妙な詐欺的言辞を信じてそのような行為をし、ハマスが受け入れざるを得ず、停戦になったとしても、アメリカ主導の開発が進んだ結果、ガザ地域パレスチナ人が被る損失を償う覚悟をするべきだろう。