書評 福音派 著・加藤善之

 ノーム・チョムスキーが『誰が世界を支配しているのか?』(https://morinaka2013.blogspot.com/2025/10/blog-post_18.html)という著書で、「米国民の地球温暖化に対する意識が高まらない理由は、「イエス・キリストの再臨を信じる人が多いからだ。米国人の約四〇パーセントが、イエスは二〇五〇年までに地上に戻ってくると信じている。だから今後数十年間に深刻な気候災害の脅威があっても、それは問題とは思わないのだ。」と述べているが、にわかには信じられないでいた。

しかし、福音派についてその成り立ちから言説まで詳細に解説されたこの本を読んで、それが本当に米国において起きている危機的現象なのだということを認識した。

この著書によると、終末論を信じている40%は米国人全体の割合だが、米国人の25%近くを占める「福音派」では、その60%を超えているという。

この団体は、進化論などを否定する原理主義者たちによって起こり、「ディスぺンセーション主義」という、旧約聖書の予言などは、イエスの到来などにより成就はされてはおらず、これからキリスト教徒とユダヤ民族に訪れるとする特殊な終末論を教義としている、現在は米国のキリスト教の諸宗派の壁を越えた宗教集団で、1970年代から強力な政治勢力として台頭したとのこと。          

このような教義が、イスラエル建国につながるバルフォア宣言に影響していたということだから、いやでも注目せざるを得ない。そのイスラエル建国が「ディスぺンセーション主義者の確信を深めたというのだから、私としては嘆息を禁じ得ない。

日本でも、時折、何千人もの教徒が集まる米国のメガチャーチの情景がテレビ放映され、違和感をもちながら視聴していたが、おそらくこのような福音派の集会だったのではないかと思う。

このような教義は、ビリー・グラハムなどの伝道者のラジオを使った伝道活動によって広がり、保守的な思想で共産主義を敵視する主張が、アイゼンハワー、ニクソン、レーガン、ブッシュ、トランプなど共和党の大統領との親密な関係を作っていったようだ。

ブッシュ(子)大統領がイラク戦争を始める理由としてあげた、イラクの大量破壊兵器保有は福音派の正戦論にあったというのも驚きだ。また、「法を通して地上に楽園を構築することで、最終的にイエスが帰還すると説」く、終末論が最近有力になりつつあるそうで、これはキリスト教国家を創るということで、時代錯誤的な恐ろしい傾向も表れている。

それにしても、唯物的な資本主義が最高に発達した米国において、このような宗教が力を持っていることに納得がいかないのは私だけだろうか。やはり、人間は経済的充足(国民すべてが充足しているわけではないが)だけでは飽き足らず、何らかの尊い価値を求める存在なのに、宗教(キリスト教)批判から始まった西洋哲学を回避し、人間の良心を信頼することかできなかった米国文化は、精神の空洞化に耐えられず、宗教的な言辞に依存し、集団での熱狂を求めてしまうのだろう。これは決して人間同士の信頼にはつながらない。

最近は、ガザでパレスチナ人のホロコーストをするイスラエルを支持し続け、独立国であるベネズエラの大統領を米国で裁判にかけるために暴力的に拉致する行為に及ぶトランプ大統領の暴走、これを止められない世界に絶望さえ感じる。

それでも、米国では、近年、「非宗教者」が28%を占めてきて、約5年前の5倍以上になっているそうだ。これが50%を超え、米国の政治を着実に制御するようになるのがいつかは見通せないが、我々はその日が来ることを待つしかないのだろうか。その日までに世界が「現実の終末」に至らなければいいのだが。